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2011年03月08日(火)

 姉がお出かけに行くのを玄関で見送る。姉は大きなビニール袋を持っていて、姉の首から下は見えなかったけど、赤い着物を着ているだろう。私はバイトの初出勤に遅れないようiPodで何度も時間を確認する。
 7時になって家を出る。街の道路はとても広い。空には電線ばかり。平泳ぎする手つきで空を飛ぶ。会社の入口はビルの上のほうにある。琥珀色の大きな門。どの部署に配属かわからなかったから、同時に建物に入ったおばちゃんたちについていって、会議に出る。新しく発売するアイスクリームの試食をする会。何品目かで偉い人がこれだと言って新商品が決まる。
 まだ8時で、これなら自分の部署が違うところでも間に合うなと思って、会社内をうろつく。壁は全部、薄く茶色の入った色ガラス。脇には植木がたくさんある。ひとつ向こうの廊下に女王蜂がいるのがわかったけれど私は頭を高いままにしており、その罪で私は捕まってしまうだろう。だから逃げる。


2011年03月09日(水)

 戦争の中で少女たちも戦力。草むらを三人一組になって並んで、それぞれ別の上空を睨んで呪文を唱えながら進む。戦地は拡大する。少女たちはどんどん進む。空からは大きな塊が飛んできて少女たちをばらばらにする。三人一組も解体されるし、ときには少女個人も解体される。
 私は見ている。戦力になっている少女らのことも、戦地の外で祈る少女のことも。
 祈る少女は「芋虫」という名前の針金を友だちとしている。芋虫はいろんな動物を形づくるけれど、最期は二匹のカエルになって、ゆっくり跳んでいってしまう。残された少女は目隠しをして記者と一緒に戦地に行く。目隠しの少女は記者に状況を説明してもらいながら歩く。目隠しの布は涙でぐしょぐしょになる。
 私はまだ戦場にならない草むらで漫画を買う。まさにこれらの少女たちの物語で、『魔法少女まどか☆マギカ(8)』だ。係の人がそろそろ戦場なので気をつけてくださーいと言う。


2011年03月10日(木)

 青緑色の果てしない海に浮かぶ球体の表面に暮らしている。空には昼も夜も星たちがいる。その中でひときわ大きく燃えている星。この星はだんだん、海と私たちの球体に近づいてきている。星が海に落ちるとき、その衝撃で、私たちの球体も海へと落下し壊れるだろうと言われている。
 その日の晩が最期だと言う。学校の真四角の窓からは街、立ち並ぶ工場の煙突、ゆっくりと落下する燃える星がよく見える。星は目に見えて巨大化している。プールでは海に落下したときに備えて、水に慣れる訓練をしている人たちがいくらかいる。私たちはそんな人びとの、細くて白い体を見下ろして、笑う。
 空はいったん真っ赤になって、夕焼けだ、煙突はまったく影絵のようになる。
 それから夜が来る。煙突の向こうに広がって、薄く光っている海。星が近づいたために、今日はいつもより明るいのです。姉は首に一眼レフをさげて、私はポケットにちっちゃいデジカメを隠している。校庭では最後の晩餐と称されたライブイベントが行われようとしていて、みんながケミカルライトを振るから、これじゃあ光がうるさくて、うまく星が落ちる瞬間がとれないじゃんと愚痴を言う。でもゲスト(私は知らないが有名な声優らしい)が急遽欠席を表明をしたようで、人はまばらに去っていく。よかった。
 星はもうすぐ海に触れる。
 私、姉、たくさんの友だち・先輩・後輩(ここには子どもたちしかいなかった)、みんなで窓を見守っていて、ああ星の落下速度! 友だちは私の腕に抱きついたし、先輩は窓枠を握って衝撃に耐える準備、後輩のうちふたりが手をつなぎ合うのが見えた、私はカメラをかまえ損ねた。
 (星は落下速度をぐんぐん増して、海に飛び込んだ、線香花火を水面に落としたみたい、散り散りに光がとんで、海ごと跳ね、私たちの球体も大きくゆれた。それを、側面で、絵画でも見るように、見ていた。)
 球体の表面で煙突は傾きたくさんの屋根はふきとんでいた。でも人びとは無事だった。私は瞬間の写真撮れんかったと悔しがった。姉がきれいに撮っていた。友だちのひとりは携帯でとった動画を自慢してきた。笑いながら家に帰った。人びとはもう終わりと思って乱獲した海の幸を、料理時間がなく、みんな素揚げにしまくっていたから、それが町中にあふれていた。


2011年03月12日(土)

 扉が凍り付いていたので、みんなでコンビニにライターを買いに行った。全員分のライター買いに。いまどきの学生さんも煙草を吸うんですねってレジのおばちゃんに言われた。何も答えずに再び扉の前に立って、いっせいにライターをかざし、扉は氷ごと溶けていく。
 扉の向こうのビル街も凍っている。
 でもとても美しかった。地面では雪のあいだに黄緑の草、ピンクや黄色の花々が顔をだしていて、ビルは緑色の蔦を芸術的に巻き付けた姿で、水晶のなかにいるみたいに青く光っていた。すごいすごいと私たちははしゃいだ。でもそのうちのひとりが懐中電灯をとりだして、気づく。美しい風景は全部うそで、懐中電灯で光をあてると、もとの茶色く溶けてぐちゃぐちゃになった地面、泥にまみれて傾いたビルが見えた。私たちは走って扉の枠を超えて、もといたところに戻ったけれど、向こう側から土砂が流れてきて、こちら側までよごしてしまう。


2011年03月19日(土)

 テニスコートと大きな液晶パネルのある広い運動場に集まってお祭り。液晶には短歌が映される。私の歌も使われるというから来たのだけど、その歌が私のつくったのと違っていて、私は抗議したい。でもコートの向こう側には声は伝わらんようでむなしい。