2012年10月10日(水)
ノックの音で目を覚ます。窓の外で雨がうるさい。朝なのに真っ暗だ。携帯の画面を光らせつつ布団を出て、歩き、玄関の電気をつける。インターホン鳴ってないのにノックだなんてと思い当たって、鍵を開けようとした手を止めた。どうやって入ったんだ。オートロックなのに。同じマンションのひとの荷物のついでとかかな。荷物を受け取るもうひとりのひとが先にインターホンを鳴らされ、ロックを開けたのか。明かりをつけたのにぼんやり暗い玄関で、灰色のドアの前にしばらく立ち尽くしていた。ドアがまたノックされる。覗き穴を覗いたけれど、眼鏡をしてないせいでよく見えなかった。チェーンも見つけられず、そのままドアを薄く開けると、宅配便のおじさんがダンボールを持って立っている。ホッとしてその小さい箱を受け取る。いろんな色のシールが貼られている。署名なんかも求めずに宅配便のひとは去って行ってしまった。
それにしても身に覚えのない荷物だ。宛名の字が読めない。両手で支えていた荷物を右手だけに預け、左手でドアを閉め、ドアを見て、そこにたくさんのメモが貼られているのに気づいた。どれも自分の字だとはわかったけれど、知っている言語と思われなかった。数字だけわかった。でも日付や時間を書いているわけでもなさそうだ。ダンボールは両親からだなと予感がしたけれど、その両親も、同じ顔をした別の人間だろうと思って、よくわからないけど悲しかった。
2012年10月12日(金)
七人でカラオケに行ったと思ったら、面接の控え室だった。黒い高級そうなソファーに座っていいと言われたので、背筋を伸ばして腰掛けた。給食みたいな味の焼きそばが振舞われた。残りのひとが来るまで暇だ。焼きそばの皿についた焼きそばの色素が集まってゲーム画面になる。ポケモンみたいなゲームをする。強い攻撃が決まったと思ったら、敵がお礼にと回復薬をくれて、みんなでこいつァドマゾだぜって騒いだ。
階段をのぼる足音が聞こえる。残りの三人が来ていた。夜の学校に移動させられる。行列に加わる。息が真っ白くなるけど寒くはなかった。魔法が使える天才少年がいるらしく、取材のひとがたくさん来ている。私たちには関係ない。こっそり列を抜けだすと、二人ついてきた。
長い桟橋を歩く。夜。ひとつのiPodからワイヤレスのイヤホンを三つ伸ばして、三人で同じ音楽を聞いた。歩調がそろっておもしろかった。
2012年10月14日(日) メモ
合宿、ロッカー、たくさんの本を置いたままの出発、いくつかの本の救出、毛虫、落ちてくる毛虫を避けて行く道。
2012年10月16日(火)
半数近くがゾンビになってしまった。私たちには私たちのことばがあるようで、ゾンビ同士で会話できる。まだ人間の人びとは、私たちは失踪してると思っている。町には夜しか来なくなって、みんなすっかり太陽の光がどんなだったか忘れてしまった。人間たちは懐中電灯を持ち歩く。電池が限られているから、慎重に点けたり消したりする。夜目のきく私たちはうまいこと人間に見つからんよう生活できる。人間をできるだけ食べない。腐った野菜を代わりに食べる。人間とゾンビの攻防のほとんどは、冷蔵庫から勝手に野菜を出して放置する/それを見つけて冷蔵庫にもどす、というやりとり。人間たちはなぜ冷蔵庫から野菜が抜け出すのか気づいてないけど、その現象を楽しんでいるようだった。
しかしこの日々はそう長くは続かないだろうと気づいている。私たちが一方的に結んでいる、腐った野菜協定に加わらないゾンビもいるし、私たちはまだゾンビとしての人生が短くて、いつ人間に襲いかかりたくてたまらなくなるか、わからんからだ。
2012年10月17日(水)
ずっと雨が降ってる街。たくさんトンネルが用意されていて、あんまり傘をささなくていい。
友だちへのお祝いのプレゼントをみんなで選んでいる。自分用に390円の可愛い鳥のピアスを買う。友だち用のものは、最新の技術で作られたすごい造花に決まった。架空の花の造花。
しゃがんだまま歩かないといけないくらい低いトンネルを行く。地面がべちゃべちゃしているので、黒いロングスカートの裾はすっかり茶色い。雷に穴を開けられた地点に来ると、サーッと雨に濡れてしまった。でも気持ちいい。広場のようになってるその真ん中には大樹。このトンネルは古いものではないし、この穴は最近の雷にやられたものだから、穴が開いてからこの樹は一気に育ったんだと思う。買ったばかりのピアスを幹に刺すと樹はまた成長して、ピアスは手の届かないところに行ってしまった。上を見ると雨の線がくっきり見えてきれい。